「諸外国における プログラミング教育に関する調査研究」 (文部科学省平成 26 年度・情報教育指導力向上支援事業)
「プログラミング教育に関する調査研究」 要約(概要)
教育の情報化に関して先進的な国々において、英国(イングランド)のように、プログラミング教育 を初等教育から導入するなど、あらたな情報教育を模索する動きがみられる。
調査対象として①プログラミング教育に関して先進的な取組を行っている②国際的な学習到達度調査にお いて評価が上位になっているという二つの観点から、英国(イングランド)、エストニアなど 23 の 国や地域が対象とされた。
プログラミング教育で注目されていたエストニアの現状 は、全ての小学校から高等学校において選択科目とすることを目標に、2012 年に 20 の実験校でプロ グラミング教育の導入に関するプロジェクトが実施されたが、現状では、ナショナルカリキュラムとし てではなく、学校裁量という形での実施になっている。
1.調査結果内容
世界の状況は、ナショナルカリキュラムのもと、プログラミング教育を必須化している国はありますが、普通教科として単独で実施して いる国はなく、情報教育やコンピュータサイエンスに関わる教科の中での実施されている状況。またどの国も指導員不足の解決がされていないことは概ねの共通課題とわかりました。 当然のことながら日本も直面しなければならない問題でしょう。
【私見】表にでている報告書を読む限りでは、 英国(イングランド)、 ハンガリー 、ロシア 、 香港 、韓国 、シンガポール 、中国上海 、 イスラエルの取り組みが進んでいることは間違いない状況ですが、他国のプログラミング教育の状況であれば、日本が2020年に 小学1年生から導入し「教育者不足の課題を日本ならではの工夫で解決する」ことで十分に追い越せる状況にあるということが解り少し不安感はなくなりました。
初等教育 段階(日本の小学校に相当)では、英国(イングランド)、ハンガリー、ロシアが必修科目として実施。
前期中等教育段階(日本の中学校に相当)では、英国(イングランド)、ハンガリー、ロシア、香港が 必修科目として、韓国、シンガポールが選択科目として実施。
後期中等教育段階(日本の高等学校に相当) では、ロシア、上海、イスラエルが必修科目として、英国(イングランド)、フランス、イタリア、スウェー デン、ハンガリー、カナダ(オンタリオ州)、アルゼンチン、韓国、シンガポール、香港、台湾、インド、 南アフリカが選択科目として実施している。
国名 | 小学校 | 中学校 | 高校 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
必修 | 選択 | 必修 | 選択 | 必修 | 選択 | |
英国(イングランド) | 〇 | 〇 | 〇 | |||
ハンガリー | 〇 | 〇 | 〇 | |||
ロシア | 〇 | 〇 | 〇 | |||
香港 | 〇 | |||||
韓国 | 〇 | |||||
シンガポール | 〇 | |||||
中国上海 | 〇 | |||||
イスラエル | 〇 | |||||
フランス | 〇 | |||||
イタリア | 〇 | |||||
スウェー デン | 〇 | |||||
カナダ (オンタリオ州) | 〇 | |||||
アルゼンチン | 〇 | |||||
台湾 | 〇 | |||||
インド | 〇 |
2.プログラミング教育を実施する主な理由
情報社会の進展の中で、21 世紀型スキルにも掲げられ ているような、論理的思考能力の育成と情報技術の活用に関する知識や技術の習得であるが、エストニ ア、韓国、シンガポールなどは、産業界からの要請による高度な ICT 人材の育成も理由としている。
多くの国で、特に初等教育段階の内容
ロボット等の実体物を動かすなど、体験的に論理的な思考力や 情報技術に関する理解を深める活動等が行われているが、プログラミング教育は単一の教科とはなって いない。
共通の課題
3.各国のプログラミング教育の取組状況
①英国(イングランド)

2013年のナショナルカリキュラム(教育の国家基準)で、 「Computing」の授業を必修化すると定められました。
従来の教科「ICT」に代わって 教科「Computing」が新設され、2014 年 9 月より実施されている。
Key Stage 1-4 の全学年で必修と定められ ているが、実際は Key Stage 4 については、GCSE(General Certificate of Secondary Education)で「Computer Science/Computing」を受験する者のみが履修しているケースが多い。
指導時数は現地ヒアリングによると、一般的にプライマリースクー ルでは 1 時間 / 週(約 30 時間 / 年)程度で、セカンダリースクールにおいては、Key Stage 3 では 1 時間 / 週(約 30 時間 / 年)程度、Key Stage 4(履修している者)では少なくとも 2 時間 / 週程度 である。
解決すべき問題点 として、
⃝プログラミング教育導入に関する議論が高まっているが、初等教育や前期中等教育レベルにコン ピュータ分野の授業を導入するには、教員のトレーニングとそのトレーナーが必要であるという 根本的な問題がある。
⃝フランスでは数学の教員の数が不足しており、現在後期中等教育(リセ)での教科「Informatique et sciences du numérique」の授業の半数は物理や技術など他教科の教員が教えている。その ためプログラミングを教えられる人材がいない。
②ハンガリー

独立教科である「Informatika」は、① IT ツールの利用法、②アプリケーションの知識、③問題解 決のツールとテクニックとしての IT、④ 21 世紀におけるインフォコミュニケーション、⑤情報社会、 ⑥図書館情報学、の 6 つの分野にて構成され、それぞれの内容や授業数は学年により異なっている。
プログラミングに関しては特に③の「問題解決のツールとテクニックとしての IT」の授業において、 論理的思考、アルゴリズム化、基本的な一連の手続き及び制御構造を学び、実際にコンピュータプロ グラムを作成しテストする。
学年別には 1-4 年生では簡単なアルゴリズムを習得し、5-6 年生では簡単なプログラムの 実装、検証、7-8 年生ではステップバイステップの計画手順、9 年生以降では改良の原理まで学ぶ。
③ロシア

2009 年に初等教育、2010 年には中等教育にプログラミング教育が導入された。
プログラミング関連の授業を 2-11 年生で一貫して教え、必修と定めている。
初等教育においては、2009 年より(他の関連教科の一部としての)「インフォルマティカと ICT」 の中で算術演算を数字と数式にて表現し、問題を解決する能力や 簡単なアルゴリズムを構築する力を付けさせている。
また、幾何学的な図形を特定し描き、表、チャート、 グラフや図表、順序集合を用いたり、データを集計、分析し解釈する力を付けさせ、プログラミング教 育とつなげている。
中等教育におけるプログラミング教育は 2010 年より導入されており、独立教科「インフォルマティ カと ICT」の中で指導されている。
現代社会のプロフェッショナルな仕事のために必要なアルゴリズム 的思考の開発、アートやデザインのためのアルゴリズムを作成するための技能を身につけさせるとして いる。
また、アルゴリズムの値、論理的操作に関する知識、主要なプログラミング言語やアルゴリズム の構造の一つ(順次、条件分岐、繰り返し)に精通させるとされている。
なお教科書に関しては、関連する DVD 等をも含め、出版社が発行するものを国が認定し、その中 から地域・学校ごとに選択する仕組みとなっている。
④香港

教育 ICT に関連する取組には、教育内容に直接関係する「カリキュラムの開発」と、教育環 境を整備する「教育における IT(IT in Education = ITE)」という二つの柱が存在する。
一つ目の柱であるカリキュラムに関しては、中学校、高等学校ともに、「Key Learning Area(KLA)」 と呼ぶ必修教科群を制定し、その教科群を構成する1教科として「Technology Education(TE)」 (TE KLA あるいは TEKLA と表記される)を置いている。
中学校、高等学校ともに、TEKLA の枠組み 内で、プログラミング教育を含めた ICT 関連の授業を行っている。
中学校のカリキュラムにおいて、TEKLA は厳密な科目制をとっておらず、「knowledge contexts」 という科目的な位置付けとなるものを定めている。
その中の一つとして「ICT」を置き、問題解決、 タスク処理、データ操作等、プログラミングの基礎を教えている。 高等学校では、TEKLA の中の 1 科目として「ICT」を位置付け、その中の必修学習項目の一つとし て「Basic Programming Concepts」を教えている。
調査時点では、TEKLA は中学校において必修であるが、高等学校においては選択である。
2013 年 に高等学校卒業認定の科目として「ICT」を選択した者が全体の 9.7%(7,900 人)しか存在せず、「物 理」の 18.7%、「化学」の 21.2%、「生物」の 22.0% と比較して低い選択率となっている。
なお、小学校においては、プログラミングに関する内容は確認できない。しかし、教科横断の 9 つ の「Generic Skills」の一つとして、「information technology skills」が存在し、インターネット の接し方、e-Learning における学び方、統計資料の活用等を、情報機器やソフトウェアの操作方法 とともに教えている。
⑤韓国

教科「情報」受講率推移
⃝中学「情報」…2006 年:46.8%、2008 年:41.4%、2010 年:28.6%、2012 年:8.1%
⃝高等学校「情報」…2006 年:24.1%、2008 年:23.8%、2010 年:21.7%、2012 年:5.2% ■ 教科「情報」開講率(2013 年)
大学入試、義務教育・中等教育修了試験
⃝大学入学試験としては、韓国教育課程評価院により実施される統一テスト「大学修学能力試験(修 能)」があるが、教科「情報」は受験科目に入っていない。
⃝「修能」の受験科目にない選択科目はあまり勉強さ れない傾向があり、学ぶように導く必要がある、との発言あり。「修能」にソフトウェア科目が 導入される可能性が示唆されている。
⑥シンガポール

初等教育では必修ではない。 中等教育では、普通校技術系コースで「Computer Applications」が必修教科となっている。
早くから情報通信産業を国の基幹産業と位置付け、90 年代から教育分野に IT インフラ を導入してきた。
中等教育では、普通校技術系コースの必修教科「Computer Applications」において簡単なプログラミ ングを指導している。
教育省が発表した「21 世紀に必要な能力」として、コミュニケーション、協力、情報スキルがあげられている。
⑦中国上海

大学入試、義務教育・中等教育修了試験 中国には、高中学業水平考試という試験があり、これは中国の高等学校生である普通高級中学生(高 中生)が卒業までに必ず合格しなければならない学力測定テストである。
中国の国家教育委員会(現 在の教育部)の 1990 年8月の通知によると、高中学業水平考試に合格することにより高中の卒業 証書を取得することができると明記されている。
高中学業水平考試のテスト科目は、国語、数学、思想政治、歴史、英語、情報技術などの 13 科 目で、試験は一般的に年2回である。
上海市の一部の高級職業学校(高職: 大学専科に相当)では、入学試験のかわりに使われている。
⑧イスラエル

1970 年代半ばからコンピュータ教育の必要性を認識し、教育省の専門委員会が 「Computing」カリキュラムを開発し、高等学校でのコンピュータリテラシー教育や BASIC 言語など によるプログラミング教育が始まった。
「Computing」はその後「Computer Science(CS)」と呼ばれるようになり、独立した教科とし て認識される。
1990 年に教育省は The Open University of Israel のジュディス・ガル=エゼル教 授(Prof. Judith Gal-Ezer)ら、数学、CS 専門の研究者による新しい専門委員会を組織し、新しい カリキュラムの開発に取りかかった。
ジュディス・ガル=エゼル教授は 1995 年の共同論文 “A High-School Program in Computer Science” の中で、『「Computer Science (CS)」は独立した教科として、高等学校教育レベル(10-12 年生)で生物、物理、化学など、他の科学の教科と同等に教えられるべきである』『プログラミング 言語だけでなく、アルゴリズムの原理やプログラミングによる実装を教えるべきである』と提言した。
教育省は 1991 年から段階的に「アルゴリズム的思考を開発し、アルゴリズムをプログラミングで実 装する」という新カリキュラムを高等学校に導入したが、この 新カリキュラムは世界で最も厳格なものであると言われている。
CS プログラムは、1 ユニット 90 時間で構成されており、短期かつ基礎的な1ユニット版(90 時間)、 中級レベルの 3 ユニット版(270 時間)、大学進学用の 5 ユニット版(450 時間)から選択できる。
「Fundamentals 1」は 10 年生、「Fundamentals 2」は 11 年生の必修科目になっている。指導さ れるプログラミング言語は論理プログラミング、アセンブリ言語などである。
指導者は大学で CS 学士号を取得し、教育省による教員免許が必要である。教育省が 2000 年に国 立コンピュータサイエンス教員センターを設立し、専任指導者の養成に取り組んでいる。
⑨フランス

アルゴリズムとプログラミング教育は行われているが、現在のところリセ一般コースと技術コースの第 2 学年(15 歳)、第 1 学年(16 歳)、最終学年(17 歳)に限られている。
独立の教科ではなく、教科「数 学」の一部として、数学教員が教えている。学校の種類や選択するコースによっては必修になっているが、国としてこれ らのソフトウェア、プログラミング言語の使用を課しているわけではない。
⃝プログラミング教育導入に関する議論が高まっているが、初等教育や前期中等教育レベルにコン ピュータ分野の授業を導入するには、教員のトレーニングとそのトレーナーが必要であるという 根本的な問題がある。
⃝フランスでは数学の教員の数が不足しており、現在後期中等教育(リセ)での教科「Informatique et sciences du numérique」の授業の半数は物理や技術など他教科の教員が教えている。その ためプログラミングを教えられる人材がいない。
⑩イタリア

コンピュータサイエンスの基本的な概念を理解 することは、これからの世代が生きていく上で不可欠であるとの考えがある。そのため 2014 年 9 月より、 初等教育(小学校)からコーディングを導入する Programma il Futuro というプロジェクトを開始した。
プロジェクト開始から 3 か月余りで全国の公立小学校の 1 割強に あたる 1,982 の公立校が参加したが、参加については学校や教員の任意である。
中等教育でのコンピュータサイエンスの位置付けは学校種によって異なり、コンピュータサイエンスが 独立教科であったり、数学の授業の中で教えられたり、学校や専攻の種別により必修か否かは異 なり、授業時間数などもばらつきがある。
コンピュータサイエンスは、普通高校及び科学高校では、1-2 年生の数学の授業の一環として教えられ ている。
技術高校 1-2 年生、同校ビ ジネス情報システム専攻 3-5 年生、同校国際マーケティング専攻 3-4 年生、同校経営・財務・マーケティ ング専攻 3-4 年生での教科となっている。
科学高校の Applied Science コースでは、1-5 年生の教科「Informatica」となっている。 教科「Informatica」の授業が行われている。
使用言語は SQL、C、HTML、PHP となっている。 後期中等教育で教科「Informatica」の授業が行われている学校での指導時数は、週 2 時間程度が多く、 技術高校でビジネス情報システムを専攻している学生は週に 4-5 時間と多くなっている。また、科学高 校の Applied Science コースでは全学年で年間 66 時間となっている。
⑪スウェーデン

義務教育(基礎学校 9 年間)では ICT は他の教科の学習用のツールとして教え られているが、プログラミング教育は導入されていない。
2011 年 7 月施行の「スウェーデン新教育 法 2011」の下に、教育庁による大規模な学校制度改革が行われ、上級中等学校では新しいカリキュ ラムによる 18 のナショナルコースが導入された。
9つの大学進学準備コースと 9 つの職業訓練専門 コースがあり、職業訓練専門コース「Technology」の中で教科「Programming」が指導されている。
指導時数は、高等学校ではカリキュラムによって異なる。教育研究省によると各教科は年間 50 ま たは 100 credits で構成されており、1 credit は指導時数 1 時間に相当する。
指導者の養成・教育については、政府は「PIM」や「ICT for Teachers」などのオンラインプログ ラムを導入して、力を入れている。
⑫ カナダ

教育省の指導に沿った教育制度を各州が制定している。オンタリオ州においては 1-12 年生までの 12 年間を義務教育期間とし、「The Ontario Curriculum」の中で教科「Computer Studies」を 10-12 年生に教えるよう定めている。
教科「Computer Studies」は選択科目である。必修 18 単位は共通取得 15 単位と選択 3 単位か ら成り、選択 3 単位は 3 つのグループから構成される。
教科「Computer Studies」は、そのグルー プの一つである。同一グループ内にフランス語、科学、技術教育等が存在する。
教科「Computer Studies」の内容として、10 年生には「コンピュータ学習入門」として基本的 なプログラミングの概念を教え、簡単なコンピュータプログラムを設計し記述できるようにする。
11 年生及び 12 年生は、大学準備と、より実学に近いカレッジ準備にコースが分かれる。
大学準備コース では、「コンピュータサイエンス」を業界の標準的なプログラミングツールを使用して学ばせ、コン ピュータサイエンスの知識と技能を深めさせる。
カレッジ準備コースでは「コンピュータプログラミ ング」を学ばせる。12 年生ではオブジェクト指向を学ばせる。
初等教育向けのプログラミング教育に関しては、米国発の子供向けプログラミング普及活動である 「Hour of Code」が課外授業として進出中である。
「Canada Learners Coding」や「KIDS LEARNING CODE」等の団体が、6-17 歳向けに放課後や学校休暇中にワークショップ、キャンプ等を実施し、 Scratch を用いたプログラミングを教えている。
⑬アルゼンチン

義務教育は 5-17 歳の 13 年間である。初等教育ではプログラミング教育は行われていない。
中等教 育では教育省の国立教育技術研究所(INET:Instituto Nacional de Educación Tecnólogica)が技術・ 職業訓練の専門教育課程を設け、カリキュラムを作成し、教科「Computing」「Programming」の指 導を推奨している。
2010 年 4 月、故キルチネル前大統領は中等教育を対象にした Conectar Lgualdad というネット ブックプロジェクトを立ち上げ、教育省が公立中学校、特別支援学校、教員養成機関の全生徒、全教 員にノート PC を一人 1 台無料配布することにより、中等教育に ICT 環境を導入し、プログラム「ICT スキル」の中でプログラミング教育を行っている。
2006 年に故キルチネル前大統領は政府が教育制度を管理する法律「教育基本法」を制定し、教員 の養成・研修を強化する方針を打ち出し、2007 年 4 月に国立の教員養成研究所を設立したが、指導 時数不足や教員の質の低下などの問題は解決されていない。
⑭台湾

全国小・中学校向けのカリキュラムガイダンス「国民中小学九年一貫課程綱要」が日本の文部科学省 に相当する台湾教育部より 2003 年に公布され、2008 年に改定された新カリキュラムが 2011 年度か ら実施されている。
小・中学校ともに、情報教育に関する教科「情報」は、学習領域「自然と生活の科学技術」に含まれ ていて、独立した教科として定められているが、必修科目ではなく、各学校の裁量で実施されている。
カリキュラムに掲げられた内容はあくまでもガイダンスで強制力はない。 小学校 3 年生から中学校 3 年生までの一貫カリキュラムでは、各段階で習得すべき基本能力及び基本 能力を測る指標が設定されていて、情報モラルに関する教育に重点が置かれている。
⑮インド

初等教育での 3-8 年生では、デジタルリテラシーやプログラミングを学習する内容になっている。
プログラミングに関する内容は教材全体の 3 割弱を占めている。デジタルリテラシーでは、コン ピュータの基礎(主にコンピュータとその周辺デバイスの役割と機能)、インターネット、セキュリ ティに加え、Microsoft Word、Microsoft Excel、Microsoft PowerPoint といったアプリケーショ ンを使ってデジタルコンテンツを作成する。
プログラミングでは、3-5 年生では LOGO を用いた図 形作成、6-7 年生では QBasic を用いて簡単な数値計算結果を画面に表示(構文、関係演算、算術 演算、論理演算などを使う)、8 年生では HTML を用いた Web コンテンツ作成、Visual Basic を用 いて四則演算を行う簡単な計算機アプリケーションを作成するといった内容になっている。
中等教育では、9-10 年生に初等教育で学んだ内容をより深く学ぶ。例えば Microsoft Excel で は計算結果からチャートを作成する。
プログラミング言語は C++ を用い、データ型、ループ文な ど基本的な記述方法を学んで簡単なプログラムの作成を行う。
11-12 年生向けの教材では、C++ でのプログラミングを詳細に説明している。
プログラミング教育が想定外の国々
①アメリカ

カリフォルニア州は ” シリコンバレー ” に代表される IT 産業の拠点が存在するにもかかわらず、高 等教育においてコンピュータサイエンス分野を専攻する学生が少ないことが指摘されており、コンピ ュータサイエンス教育を初等・中等教育に取り入れようとする草の根運動が報告されている。
2014 年 4 月にはカリフォルニア州議会にてコンピュータサイエンスを義務教育に取り入れる案の検討がな 110 された。今後、コンピュータサイエンス教育が導入された場合、その学習項目の一つとしてプログラ ミング教育が行われる可能性がある。
カリフォルニア州政府としてプログラミング教育は未導入である。プログラミング教育は学校裁量で 実施されているため、プログラミング教育導入の背景をまとめるに足る情報は得られなかった。
一方で、 プログラミング教育に関連して、カリフォルニア州政府としてコンピュータサイエンス教育の導入を目 指す動きがある。
大学のコンピュータサイエンス専攻への進学者が全米平均と比べて少ない、コンピュ ータサイエンスのコースが必修でない、コンピュータサイエンスを教える指導者のための資格がない、 といった背景を受け、幼稚園から高等学校卒業までのいわゆる K-12 教育においてコンピュータサイエ ンス教育を州のカリキュラムに導入しようという取組である。
この動きは、コンピュータサイエンスの (特に大学の)指導者が主導している。
備考 NPO の Code.org (https://code.org/)によると、全米のハイスクールの 10% がプログラミ ング教育のコースを提供している。 米国の各地では、コンピュータサイエンスをハイスクール卒業要件科目に取り込む動きがある。
最近の例ではイリノイ州シカゴの公立学校制度である。 カリフォルニア州教育局が規定する科目「数学(Mathematics)」のフレームワークに、「問題 解決スキル等の拡張にコンピュータ言語等を利用する」のが好ましいとあるが、プログラミング教 育をするようにとは定められていない。
同様に、ハイスクールで「コンピュータプログラミングの スキルは数学と同じ論理学に基づいており、数学的なコンピュータプログラムのコースを設けるの が望ましい」とあるが、どのプログラミング言語を使用するか、どのようなレベルを目指すかにつ いては規定されていない。
②ドイツ

解決すべき問題点 [DE03] ニュース週刊誌『Der Spiegel』のプログラミング教育に関する記事に以下のように記されている。
■最も大きな課題は、何が基本的な IT 教育であるのか、といった基礎概念が IT 教育者の間で定まっ ていないことである。Windows の Office をベースにすることを望むもの、プログラミングに集 中すべきとするもの、プログラミングを完全に拒否するもの、Office とプログラミング両方を教 えるべきとするものなど様々な考えがある。
■ IT 教育者が高く評価されず、授業だけでなく IT 機器のメンテナンスまで責任を負うため時間外 労働を強いられることになっている。
③フィンランド

プログラミングを 2016 年から義務教育に含めることが決定しており、この導 入計画に関するガイドブックは “Koodi2016” と呼ばれている。
“Koodi2016” によると、プログラミ ングは 1-9 年生の算数・数学のカリキュラムの一部として導入される予定である。
1-2 年生では、コ ンピュータに正確な指示を送ることが重要だということを習得するために、遊びを通して他の学習者 たちに明確な指示を与える練習をする。
3-6 年生では、Scratch などのビジュアルプログラミングを 使用する。7-9 年生では、プログラミング言語を学び始める。 プログラミングに関する記述は、現行の基礎教育のナショナルカリキュラム内では確認できない。
2016 年秋より基礎学校においてプログラミングが算数・数学の一部として扱われる予定である。
フィンランドでは、一般的に教員には学級担任と教科担任の 2 種類があり、どちらの教員も修士 課程を修めている。免許制ではなく、修士号の取得により教員の適格性が証明されている。
1-6 年 生は学級担任制で 7-9 年生は教科担任制である。2016 年以降のプログラミングの授業に関しては、 1-6 年生に対しては学級担任が教え、7-9 年生に対しては数学の教員が教えるとしている。
④エストニア

現在、プログラミング 教育の導入・実施については学校及び指導者の判断に委ねられている。
なお、Tiger Leap Foundation は 2013 年に HITSA(Hariduse Infotehnoloogia Sihtasutus)に統合され、”ProgeTiiger” プログラ ムは現在 HITSA が引き継いで活動している。
現地ヒアリングによると、プログラミング教育を実施しているベーシックスクールの一部では、選択教 科である
「Informatics(Informaatika)」の中でプログラミングが扱われており、ロボットプログラムや ゲームプログラムを用いて、プログラミングに興味を持たせる活動に重点を置いている学校が多いとい う。
また、一部のアッパーセカンダリースクールでは、Scratch、Python、Java などを用いてプログラ ミングを学ぶ授業が独立科目(選択科目)として設置されているという。
指導時数は学校によって異なり、指導者についてはプログラミング教育の専任教員がいる場合と、 数学など他教科の教員がプログラミングを教える場合がある。
特にロボットプログラミングに関して は、教員の他、大学生や保護者、企業などのボランティアが指導することもある。
エストニアの IT 政策についての補足
⃝「[1991 年、ソ連からの:引用者注]独立後、政府は IT とバイオテクノロジーに資本を集中し ていくことを決定し、国民もそれを支持した。幸いにも、この政策は今日まで一貫していて、 エストニアの成功の大きな要因になった。もうひとつの成功の要因としてソ連時代の旧システ ムに対する執着がないため、最新のシステムを導入することに対して既存のシステム運用者側 からの抵抗はほとんどなかったこともあげられる」
⃝「独立当初は、道路などの生活基盤や学校などの公共建築物もかなり整備が必要であった。し かし、インターネットの利用環境の整備に力を注ぎ、学校などでは、屋根の修理よりもパソコ ンの導入を優先したとさえいわれている」
⃝なお、「Skype Technologies 社はエストニアで創業された企業で、本社はルクセンブルクに おいているが、開発拠点はエストニアの首都タリンにある 」(同社は 2011 年にマイクロソフ ト社に買収され、現在は子会社となっている)